鬼の爪の逸話の残る寺

応永の昔、砂ヶ原の里(旧二宮町)に久左ヱ門という者が住んでおりました。強欲で人一倍馬力があるので村人は誰一人として相手にしませんでした。やがて不治の病にかかり亡くなった久左ヱ門を村人は「いくら悪人でも死んでしまえば仏さんだべ。身寄りもないかわいそうな人間だからお墓に葬ってやろう」とその亡骸を菩提寺に葬ることにしました。時の宗光寺の住職である頼真僧正は慈悲深く、観音様の化身といわれるほどの高僧でした。

野辺送りの途中の出来事でした。ちょうど堀込村と太田村との境にある橋のところに差しかかろうとした時です。不思議なことに、今まで雲ひとつない晴天が突如一天にわかにかき曇り、篠突くような雨が降り出し、雷音が轟き稲妻が光りました。誰かが「あっ!」と叫んだ一瞬、黒雲の隙間からものすごい形相の赤白二匹の鬼が飛び出し、久左ヱ門の亡骸を奪おうとしました。

頼真僧正はすぐに真言を称え、右手に持っていた独鈷で赤白の鬼を叩き落しました。赤鬼はその独鈷を食い切ろうとしましたが僧正の法力には勝てず爪を落として退散してしまいました。葬列は無事に橋を渡り、宗光寺の墓地に埋葬されました。この橋は「咎の橋」と名付けられ横足久左ヱ門の名は令和の世まで鬼の爪とともに語り伝えられており、食いちぎられた独鈷と「鬼の爪」は宗光寺の秘宝箱に現存しています。

御朱印について

鬼の伝承にちなんだ御朱印と天海僧正ゆかりの御朱印がございます